怪談 泰山木

     3年R組ゲナゲナ話より(注: ゲナゲナ話とは、人々の口伝えで語られるうわさ話)

 ある、梅雨の真っ盛り、昼下がりのことでした。明善高校 3年R組の教室内は薄暗く、梅雨寒の気配さえ
感ぜられ、静まりかえっていました。
 今日はもう授業もなく、HRの時間を待っている状態です。生徒は来春の大学受験を控え、そろそろ進路
を決定する時期に来ています。自分の実力に応じて受験校を決定する3者面談は、夏休み前の目前に迫っ
ています。一人ひとりの胸に、何かしら重苦しいものがのしかかっています。

 外は雨、ひとしきりザーッと来たかと思うと、今は止んでいる状態です。空はあくまでも暗く、明かりをつけない
教室内は薄暗く静まりかえっています。生徒は机にうつ伏せたり、ぼんやり物思いにふけるように座ったりで、
誰も口を開こうとする者はおりません。
 外でピカピカッと光ったかと思うと、またひとしきりザーッと来て小降りになったとき、泰山木の花の落ちる音が
聞こえました。「パサッ」・・、雨と雷の音で聞こえるはずのない音が、一人ひとりの耳にハッキリ聞こえたのです。
不吉な予感が、教室を覆いました。そに時・・・

 教室の後ろのほうに座っていた女の子が、「アッ!落ちた」と小さな、小さな声でつぶやきました。すると、その
声は木霊するように教室中に広がり、雷鳴のように大きく響きわたったのです。同時に、サーット冷たい
風が吹き、教室内が真っ暗になりました。
 やるせないような寒さです。泣きたいような暗さです。教室中が凍り付いています。・・・・『終わり』

             ♪青春時代の思い出は、胸にトゲ刺すことばかり・・♪
 

* 泰山木:モクレン科モクレン属の常緑高木で、夏の初めに直径10cmにもなろうかという、大輪の芳香を持つ
 花を咲かせる。花は咲き終えると、枯れる前に音もなく落下することから、「落第花」と綽名されている。
  明善校3年R組のそばにも、つやつやとした葉を持った泰山木の大木があるという。

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